3オクターブ出せると言っても、その中身が重要

ボイトレ本やYoutubeの動画を見てると、「あなたも3オクターブの音域が手に入る!」的なキャッチコピーをよく見かけます
確かに3オクターブ出せたら普通に歌うには十分です。っていうか2オクターブ半でも十分です
問題は、その3オクターブをどう出しているか?
地声から裏声までスムーズに繋げるか?です
一般的に、男性のほうが音域が広いらしいです(低音まで出せるから)

いくら高い声を出せるとしても「ギャァァァァ!」みたいな声だったり
「フォ~~~」みたいな完全な裏声だったり
クロちゃん(タレント)みたいな無理に作った女声だったり
あとは地声で苦しそうにハイトーン出して、急に裏声にひっくり返るとか
それで3オクターブ出せても意味がありません

音域を広げるよりも、よく使う音域の1オクターブ半をスムーズに自在に繋ぐ練習をしたほうが、はるかに実用的です

歌いにくければ素直にキーを下げよう

今回のまとめ
・無理に高いキーを歌っても悪いクセがつく
・キーを下げて歌ったほうが上手く聞こえるし、客もキー下げてることに案外気づかない
・低い声でもテクニックで上手く歌える

高い声を出すために、自分が歌えないキーの曲を無理に歌い続ける・・・
ほとんどの場合、良い結果になりません
声帯閉鎖に力を入れるクセがついて、ハイラリになるクセがついて、そのクセが抜けなくなって・・・みたいな悪循環になります

高い声を出す練習をするなら、地声からの積み重ねが必要です
それを飛ばしていきなり高い声を練習しても、悪い発声方法になる場合が多いです

例えば、「HiBの曲を限界ギリギリで歌う」のと「キーを下げてHiAで余裕をもって歌う」のでは、明らかに後者のほうが上手く聞こえます
しかもキー2つ下げてることなんか、周りは気づきはしません
プロでもライブでキー2つ下げるなんてザラです。客はほとんど気づきません
(さすがに1オクターブ下で歌ったのはズッコケましたが 笑)

苦しそうな声でHiBを「あ~~~~」と出すより、しっかりとした声でHiAを「あ~~~~」と出したほうが、高い声が出てるように聞こえるんです
絶対音感を持ってる人にはバレると思いますが、音程よりも音質のほうが重要だったりします
なので、喉仏のコントロールをして音質をコントロールすることが重要です

ただ、バンドをやってると原曲キーじゃないとダメな場合があります
そんな時は、高くて歌えない部分のメロディをいじって誤魔化せば良いんです。あとは客に歌わせるか(笑)

女性の曲を男性が歌うときは、キーを4つ以上は下げたほうが良いです
「高い声=良い声」ではありません
「低い声は上手く聞こえない」と考えるのは間違いです
低音でもファルセットは使えるわけですから、呼吸の量や感情表現を上手く使えば、とても良い歌い方になります

一流歌手のように歌えるのか?個人差の限界

ボーカリストなら誰でも「憧れる歌手」がいると思います
私の場合はJourneyのスティーブ・ペリーとかでしょうか
ハイトーン出してるのに聞き苦しくならず心地良い

スティーブン・タイラー、ブライアン・アダムス、リッチー・コッツェンのようなハスキーボイスも憧れますが、あまりに自分とキャラが違うと目指す気も起きません
マイケル・ジャクソンとかも好きですが、まぁ異次元すぎますな
ボンジョビとかチェスター・ベニントンとか、他にもあげたらキリがありません

この人たちが何で良い歌を歌えるかって、テクニックって言うより「そういう声を持って生まれたから」なんですよね
スティーブン・タイラーは歌ってるときもインタビューのときも同じ声です
ワンオクロックのTAKAも、普段からあの声なわけですよ
私は歌をコピーする前に、その人が普通に喋ってるときの声を聞くんですが、みなさん地声がすでに素敵なんですよね
たとえ私が同じテクニックで歌っても、ああはならない訳です

あきらめろ、と言うわけじゃありませんよ
プロの真似をするよりも、まず自分の歌い方を確立したほうがいい。ということです

発声技術も身につかないうちに、自分の限界を超えたハイトーン挑戦したり、基本を身につけずプロのテイスト(クセ)だけを真似しても、練習にはならないということです
基本からコツコツとやっていけば、もしかしたらいつか憧れの歌手のように歌えるかもしれないですからね。桜木花道のようにコツコツと頑張りましょう

イメージ的な言葉に惑わされないように

音楽は芸術の世界なので、独特の言葉の表現を聞くことがあります
歌ってるときは背中を意識しろ
後頭部から声を出せ
下半身に集中しろ
頭の上の風船を割るように
・・・・などなど
これは全部「発声のイメージ」であって、本当に身体がそうなる訳ではありません

例えば「背中を意識しろ」というのを解剖学的に説明すると、、、
呼吸を吐くための筋肉である腹横筋は腹から背中まで付着している
身体の正面の腹直筋よりも、胴体をグルッと一周してる腹横筋が呼気で使われる
だから「腹だけじゃなく背中も意識する」
さらに、背筋を伸ばすことで胸郭が広がるので、少し空気の入りが良くなる
と、こんな感じです。

でも「背中を意識しろ」と教えられても、素人は何のことか分かりませんよね?
具体的な説明がないから、人によって解釈が変わってしまいます
そうすると、無駄な力を背中に入れる人もいるだろうし、無理な姿勢で歌う人も出てくると思います

次の例です、「後頭部から声を出す」というイメージを解剖学的に説明してみます
喉仏が過剰に上がってしまうと、喉の空間が狭くなって、喉よりも口腔が重点に響きます
そうすると感覚的には口~鼻にかけてビリビリ振動を感じるので、あたかも声が「正面」に飛んでいる感じがします。
人にもよりますが、正面(口腔)だけに響いてる声は「キンキンした声」になりがちです
喉仏を下げると、声が喉の広い空間に響きますので、厚みがある声になります
この時、振動が正面から後方に移動した感じになります。これが後頭部から声を出す感覚です
(ちなみに、軟口蓋を上げると後頭部に響く。という説明は解剖学的に間違いです。詳しくは→こちら

ボイトレに行くとたいてい「声の方向」という話をされますが、声が前後に移動する訳ではなく、「喉仏の位置」と「口腔の形」で声道の共鳴が変化し、それによって振動を感じる部分が変わる。ということです
なので、後頭部なんかを意識するよりも、喉仏と口腔を動かす練習をしたほうが良いと思います
大事なのは、その練習のためのツール(方法)があるかどうかです

良いボイトレ、悪いボイトレ

1~4回に渡ってボイトレの概要について書きましたが、じゃあ具体的に何をするべきか?です
一番最初の記事にも書きましたが、ボイトレは個人個人でやるべきことが違うので「これが必ず正しい」という事はありません

例えば、「高い声を出すと喉が絞まって苦しくなる」という人がいたとします
声帯の閉鎖が強いのか?あるいは喉仏が上がって喉が狭くなっている。などの原因が考えられます
こういう人に「ハミングで鼻に声を響かせるように」という練習をやっても逆効果になる場合があります
なぜなら、喉仏を上げたほうが高音が強調されて鼻に響くので、どんどん喉仏を上げるクセがつく可能性があります(私がそうでした)

次の例です「声質がモヤッとして声に明瞭さがない、明るい歌に馴染まない」という人。
解決策としては、口を横に広げたほうが高音が協調されるので、口角を上げて歌うことで声が明るくなるかもしれません
こういう人に「口を縦に大きく開けて~、あくびの状態を作って声を出しましょう」という合唱団がやるような練習をやっても、よけいに声質が丸くなって逆効果の場合があります

上に書いたのは、ほんの一例です
ボイトレに行くと、お決まりのようにハミングで鼻に響かせる練習をしたり、合唱のように口を縦に開けて歌うスクールがあります
別にこの練習法を否定する訳ではないのですが、誰に対しても同じ教え方をするのは良くないです(グループレッスンなら仕方ないですけどね)

例えば、喉仏の動かし方が分からない人に「ハミングしながら振動を感じる場所を変えてみてください。鼻の方に響いてるときは喉仏は上がってますよ、唇~喉に響いてるときは喉仏は下がってますよ。こうやって喉仏をコントロールするんですよ」と教えるなら良いと思います
あるいは「あなたは声質が軽いから、口を縦に開けて中低音を出すようにしたら?」というアプローチなら良いと思います

こうやって、個人個人の今の現状を分析し、本人がどうなりたいのか?そして現実的にそれが可能なのか?を考えることが大事だと思います