歌ってて息を吸うとき、鼻から吸うか?口から吸うか?考えたことはありますか?
人によって様々なんですが、結論から言えば「どっちでもOK」です
ただし口呼吸には少しデメリットがあります
【口呼吸のデメリット】
口・喉・声帯が乾燥する
唾を吸い込んで、むせる事がある
呼吸の音をマイクが拾ってしまう場合がある
てな感じです
ブレスのヒマが無いときは、口で吸ったほうが速いです
ロングトーンの前に、一瞬しか吸うヒマが無い曲とかありますからね
普段は鼻呼吸、ヒマが無いなら口呼吸。みたいに使い分けるのが良いと思います
「口から吸うと胸式呼吸になりやすい」という人もいますが、そもそも歌の場合は吸気で大げさな腹式呼吸をやる必要はありません
吐く時はしっかり腹式を意識したほうが良いですが、吸うときはそんなに意識しなくても大丈夫だと思います
たまにボイトレで「息を吸うときに腹と背中を膨らませて、奥まで空気を入れろ」とか言いますが、息の吸いすぎは良くない場合があります
「腹式呼吸の話」でも書きましたが、歌で大事な事はしっかり息を吐くことです
ちゃんと息を吐けば、肺の中が陰圧になるので、それなりに空気が入ってきます
肺の空気を全部交換する必要はありません。適量の空気が出入りすれば十分なんです
なので、「吸う」ことよりも「吐く」ことに意識を集中してください
ちなみに「腹式呼吸は必要ない」という意味ではないので注意してください
横隔膜を使う呼吸は全部腹式呼吸なので、腹式呼吸じゃないと人間はマトモに呼吸できません
ただ、吸うときに大げさに腹や背中を膨らませる必要はないという事です
歌の腹式呼吸と、ヨガや太極拳で使う腹式呼吸は違います
腹式呼吸の詳しいメカニズムは、腹式呼吸の話を読んでください
「呼吸」カテゴリーアーカイブ
筋トレはボイトレに効果あるか?腹横筋の話
筋トレはボイトレに効果があるのか?
結論を先に言うと、ほとんどありません
ボイトレやりながらジムで筋トレして、2年で12キロ筋肉を増やした私が言うんだから間違いありません(^^;)
まぁ体幹(胴体)は筋力あったほうが良いですけど、胸とか肩とかの筋肉は発声には関係しません
声帯の周りの筋肉はパワーは必要ありません。それよりも「自在に動かせるか?」「緻密な調整ができるか?」が重要です
あえて歌のために筋トレするとしたら、息を吐くための筋肉を鍛えると良いでしょう
一番は腹横筋(ふくおうきん)、あと腹筋、腹斜筋です
※腹式呼吸の記事でも解説しましたが、パワーで大量の息を吐く訳ではありません。一定の量を安定して吐くための筋肉です。腹式呼吸の詳しくは→こちら
腹横筋はインナーマッスルで、腹筋の内側にあります
腹筋は身体の正面だけですが、腹横筋は腹から背中までグルッと1周してます
ボイトレで「背中を意識する」ってのは、この腹横筋のことです
「歌うには背中の筋肉が大事」とか言われますが、背骨に付着する脊柱起立筋や、肩甲骨の間の菱形筋なんかは、たいして歌に関係ありません
やたらと背中を意識して筋肉に力を入れる人もいますが、無駄に疲れて自然な声が出なくなります。詳しくは→歌うときの姿勢について
腹横筋の構造を頭に入れて、よけいな部分に力を入れないようにします
歌うときは、息を吐きながら少しずつウエスト全体が絞られるような感じです
正面だけじゃなく、側面~腰あたりまで絞る感じです
くれぐれも無駄に力を入れる必要はありません。必要最低限で絞れば十分です
身体の正面の「腹筋」にやたら力を入れて、ボディブローに耐えるような状態で歌うのは間違いです
それは息を吐くのに関係ない力の入れ方だからです
ボディブローに耐えてる時って、力をグッと入れて外側を固くしてるだけで、内部は絞られてません。なので腹圧はあまり変化しません
正しくは、腹を軽く凹ませて、ウエスト全体を細く絞って、腹圧を上げるのです
腹筋よりも腹横筋が大事なんですが、そこまでガチガチに鍛える必要はないです
リップロールが安定して出来るくらいの「吐く力」があれば十分です
ただし・・・デスボイス(仮声帯発声)をやるとしたら、初心者のうちは息を吐くパワーが必要になるかもしれません(慣れるとデスボイスもパワー不要になる)
まぁ普通の人はハードコアやデスメタルなんて歌う機会は無いと思うので、筋トレは頑張り過ぎなくて良いと思われます
腹式呼吸について掘り下げてみる。なぜ歌うと疲れるのか?
今回の記事は少しマニアックな内容です
腹式呼吸について詳しく書きますが、普通に歌える人なら、そんなに腹式呼吸のやり方にこだわる必要はないです。マニアだけ読んでください
さて、この腹式呼吸のやり方。これは人によって様々です
「あなたの腹式呼吸は間違っている!」みたいな動画がたくさんあります(笑)
中には「腹式呼吸なんか必要ない!」という方もいます
結論から言うと、腹式呼吸は必要です
大げさに腹を膨らませたり、凹ます必要はありませんが、厳密に言うと人間は腹式呼吸しないとほとんど歌えません
まぁ「腹式呼吸」の定義が人によって曖昧です。特にボイトレ界と医療界では言葉の認識にズレがあります。医学的には横隔膜を使っていれば腹式呼吸に分類されます
横隔膜を動かさないで純粋な胸式で歌うのは、普段の呼吸と違う事をやる訳ですから不自然な方法です。普段の呼吸と同じように歌うのが自然なわけです
(ちなみに横隔膜を動かす横隔神経が損傷すると呼吸困難になる)
注意しなきゃいけないのが、ヨガや太極拳でスーハースーハーと腹式呼吸やっているときと、歌っているときでは状況が違うということです
普段の呼吸時は、声帯が完全に開いているので、何の抵抗もなく息を吐けます
歌っているときは声帯が半分閉じているので、それが抵抗になって息がなかなか吐けません
「ふぅ~~」と深いため息をついてください。何の抵抗もなく肺の空気が全部出ますよね
今度は「あ~~」と地声を出しながら肺の空気を出し切ってください(ファルセットじゃダメですよ、あくまで地声を出しながら)
発声しながら息を吐くと、全部出すのに時間がかかるし、ちょっと大変ですよね
(この動画の2:20~見ていただくと、よく分かると思います→ https://youtu.be/ClF_7bbHmUI?t=140)
呼吸は声帯の抵抗がないので、吐く力は要らない
歌は声帯の抵抗があるので、吐く力が要る ということです
ここで解剖生理学の話をします
細かい説明をするとキリがないので簡潔に説明します
息を吸うときは横隔膜が収縮して下に下がり、肺が広がります(他の筋肉も働くのですが、ほとんどは横隔膜の力です)
息を吐くときは横隔膜が弛緩(脱力)し、横隔膜と伸びた肺が「ボヨン」と元の位置に戻ることで息が出ます。 伸びたゴムが「ボヨン」と元に戻るイメージです
つまり、通常の呼吸時は息を吐くのに力は必要ない。ということです
横隔膜に力が入るのは吸うときで、吐くときは脱力するのです
深~く息を吸い込んで、フウッと深いため息をつくと分かると思います
息を吐くときに力は要りません
ところが、歌ってるときは声帯が抵抗になるので、肺と横隔膜がボヨンと戻るだけでは息がなかなか出ないのです
なので、歌ってるときは息を吐くために腹横筋や内肋間筋が働くのです
この筋肉の助けがないと、しっかりした声は出せません。これが歌に腹式呼吸が必要な理由です
「腹式呼吸は必要ない」と言ってる方がいますが、先に書いたように横隔膜を使う呼吸は腹式呼吸です
横隔膜を使わない純粋な胸式呼吸だと、安静時の呼吸だけでも苦しいと思います
こういう方々はたぶん「過度に腹に力を入れる必要はない」「息が強すぎるのはダメ」と言いたいんだと思うんです(←この意見には私も賛成)
しかし、「腹式呼吸は必要ない」というタイトルのせいで誤解を与え、それを見た人間が浅い知識で「腹式呼吸は必要ないんだぜ~」と解釈します
「大げさに腹式呼吸をしろ」と言う人は間違いですが、「腹式呼吸は必要ない」と言う人も間違いです
腹式呼吸は強い息を吐くためではなく、一定の息をコントロールして出すために行います。「腹式=強い息」ではありません
話は変わりますが、歌ってて息苦しくなる人は「息を吐かない」ことが原因の場合があります
声帯閉鎖が極端に強い人や、恥ずかしがってボソボソ歌う人は、息を吐かないから苦しくなります。なぜなら息を吐かなきゃ、新しい空気を吸えませんので
水泳も同じですが、水中で息を止めてたら、息継ぎのときに吸えません
「息を吸う → 水中で少しずつ息を吐く → 顔を上げて吸う」のサイクルなら苦しくありません
歌の場合、肺の空気を全部出し切る必要はないですが、フレーズごとにある程度の息を吐いたほうが楽になります
ちゃんと息を吐けば、肺の中が陰圧になるので、無理に吸おうとしなくても自然に空気が入ってきます (吐きすぎも良くないので、あくまで適量の息を吐くこと)
息を吸うときも、無理にたくさん吸ってはダメです
肺の空気を100%換気するわけじゃないので、吐いたぶんを入れれば十分です
ヨガや太極拳みたいにゆっくり吸う時間はありませんので、吸気時に横隔膜やら背中を大げさに意識する必要はありません
長くなりましたが結論を言うと、
歌に腹式呼吸は必要だが、ヨガみたいに大げさに腹を動かす必要はない
意識すべきは「吸う」よりも「吐く」
たくさん吐けば良いという訳ではない。一定の量の息を安定して吐く
呼吸の記事を追加しました
腹横筋について→筋トレはボイトレに効果あるか?
口呼吸について→鼻から吸うか・口から吸うか
ロウソクの火が揺れないように歌う練習は良いのか?
結論を先に書きます
・ロウソクの火を揺らさないで歌うのは、小さい声を出すための練習ではなく、無駄なパワーを使わず、「共鳴」でしっかりした声を出すための上級練習
・初心者はやらないほうがいい
・ポップスはファルセットも使うので、火はどうしても揺れる
・アナウンサーや声優の方には良い練習
人間は息を吐かないと声を出せません
ギターの弦は息がなくても音がでますが、管楽器は息が必要です
人間の声は管楽器みたいなものです
声帯閉鎖のコントロールで解説しましたが、声帯閉鎖は弱いほうが息がたくさん出ます
地声=声帯閉鎖が強く、息があまり口から出ない
裏声=声帯閉鎖が少し緩んで、ほんの少し息の量が増える
ファルセット=声帯閉鎖が弱く、息がスカスカと漏れてる状態
静かな声で「ヒソヒソ話」してる状態がファルセットです
口の前にティッシュなどを垂らして、「あ~~」と声を出してみてください
地声だとティッシュは揺れないけど、ファルセットだと揺れるはずです
「ロウソクの火を揺らさないで歌う」という練習方法をよく耳にします
揺らさないで歌うには「地声~裏声」で歌う必要があります
無駄に息を強く出したり、よけいな力で叫ぶと、火は揺れてしまいます
そうならないように、「無駄なパワーを使わず共鳴を使ってボリュームを出そう」という練習です。上級の練習だと思います
「共鳴を上手く使えない → 無駄に声を張り上げる → 息が多くなる」という事です
(共鳴については何個か記事を書いてますので、以下のリンクをご参考ください)
声のボリュームを上げるには?
喉仏と口で音質をコントロール
固有振動について(難しめ)
しかし、火が揺れるのが必ずしも悪い訳ではありません
ポップスではファルセットも使いますし、ハスキーボイスの人なんかは息漏れが多いです
ジャンルに合った声が出てれば、「火を揺らさない」なんて事に拘る必要はありません
あと「火が揺れないからOK」という訳でもなく、喉が閉まって苦しそうな地声を出している人は、口から息が出てませんので火は揺れません
「火が揺れる or 揺れない」で「良し悪し」は判断できません
特に初心者の段階では、「声帯閉鎖が強すぎて息を吐けてない人」が多いです
その段階で「あまり息を吐いちゃダメ」という意識を持ってしまうと、よけいに悪化する可能性があります
初心者のうちはしっかり息を吐く意識を持って、だんだんと上達したら無駄を無くしていけば良いと思います
何事も練習には段階があります。いくら良い練習法だとしても、相手のレベルや発声状態によっては逆効果になる場合があります
↑とは逆パターンで「声帯閉鎖が弱すぎて、スカスカ息が漏れてファルセットになってしまう人」なら、火を揺らさない練習は良いかもしれませんが、まぁ普通に声帯閉鎖の練習をした方が上達すると思われます
火を揺らさない練習は、アナウンサーや声優の人には良いと思います
アナウンサーの世界では、特に「マイクを吹くな」と言われます
「はひふへほ」を発声するときなど、「はっひっふっ!」と過剰に息を吐くとマイクに「ボッ!」と雑音が入ってしまいますので良くないですね(それを防止するためにポップガードというものがあります)