リップロールをやってみよう

今回のまとめ
・リップロールで歌うと「呼吸」と「声帯閉鎖」の練習になる
・バックプレッシャーがかかって声帯振動が整う(らしい)

・一定の量の息を安定して出す練習になる
・声帯閉鎖が強くて、地声で力んでしまう人に良い
・声帯閉鎖が弱い人には逆効果かもしれないので注意

前回の記事で「ボイトレでやるべき事は個人個人で違う」と書きましたが、最初のうちは「コレやっとけば、だいたい間違いない」という練習方法があります
(あくまで私が個人的に考えることなんですが、、、)

それはリップロールです
リップロールしながらメロディを歌うんです

・・・なんだよ、そんな単純な事かよ!と思うかもしれません
しかし、目的意識をもってリップロールするのが大事なんです

一番最初の記事にも書きましたが、歌の上達は 呼吸・声帯・共鳴を自在にコントロールできるようになることです
リップロールはこの中で一番難しい「呼吸」と「声帯の閉鎖」の改善に役に立ちます
しかもこの練習は声帯への負担も少ないです

声帯閉鎖のコントロールでも書きましたが、地声から裏声に上手く移れないのは、声帯の閉鎖が強すぎるパターンが多いです(中にはその反対の人もいますが)
声帯の閉鎖が強いということは、息を吐けてません
逆に息を吐けるということは、声帯閉鎖が弱いということ
ならばリップロールで息をしっかり吐きながら歌うクセをつければ、声帯の閉鎖も弱まるのでは?という発想です(この方法で何人か実験して上手くいってます)

例えばですが、地声で吐いてる息の量が「5」だとします
ため息で吐く量が10、息を止めると0とします
数字が多いほど、肺から出る息の量が増えます

ため息 10
ファルセット 8
裏声 7
ミックスボイス 6
地声 5
力んだ地声 4
ボーカルフライ 1
息を止めている 0

声帯閉鎖が強い人は、閉鎖が強いために4~5の量の息しか吐けません
リップロールで歌っているときは7~8の量の空気が声帯を通過します
7~8の空気の量を出す感覚に慣れると、普通に歌ったときに5.5くらいに落ち着きます(笑)
5.5って微妙な数字ですが、5→6のミックスボイスに移る橋渡しです
上手く地声からミックスボイスに移れる人は、常に5.5くらいの息の量(声帯閉鎖)で歌って、5.7→6→6.5など、さらに微妙に声帯閉鎖をコントロールします
例えば6の息の量なら強いミックスボイス。6.5なら弱いミックスボイス。7になると息混じりのファルセット。みたいな感じです

注意点
リップロールは小刻みに唇をプルプルさせるのが正解で、ブルン!ブルン!とさせるのは間違いです。これは8~10の息が出ているので多すぎです
唇を固く閉じて「ぶぶぶーー」とやるのも間違いです
目安として、15秒~30秒くらいプルプルさせてください
「ブルン!ブルン!」だと10秒くらいで肺の息が全部出てしまいます
「ぶぶぶーー」だと息を止めてる状態と変わらないので、30秒経っても肺に息が残ってると思います

あと、声帯閉鎖が弱く、ファルセットみたいに息がスカスカ抜けてしまう人は、リップロール練習は逆効果になるかもしれません
声帯閉鎖が強い人には、良い練習になると思います

「ハミングじゃダメなの?」と思うかもしれませんが、ハミングとリップロールは目的が違う練習です。ハミングは声帯閉鎖を強くした状態でもできるからです
個人的には、ハミングやストローエクササイズは、少ない息の量で行うエクササイズ。リップロールやタントリルは多い息の量で行うエクササイズだと思ってます
ストローエクササイズについては→こちら

「リップロールをやらなくても、裏声やファルセットで歌えば声帯閉鎖が弱まるのでは?」とのご意見もあるかもしれません。それも一理あります
リップロールで歌うトレーニングの良いところは、唇が抵抗になって呼気が少しせき止められ、声帯にバックプレッシャー(空気の圧力)がかかって声帯振動を整える点です
さらに、呼気がせき止められるので、声帯はリラックスしながらも、一定の量の息安定して吐かないと、リップロールは上手くできません
ファルセットだと、モワッと何の抵抗もなく息が出てしまい、呼吸の練習にはなりません
裏声は声帯に負担をかける場合もあるので、多用するのは良くないです

一番の問題は、リップロールが出来ない人がいることです・・・
唇の両端をちょっと持ち上げるとプルプルしやすくなります
あと、唇が濡れているほうがプルプルしやすいので、風呂場なんかで練習すると良いです

良いボイトレ、悪いボイトレ

1~4回に渡ってボイトレの概要について書きましたが、じゃあ具体的に何をするべきか?です
一番最初の記事にも書きましたが、ボイトレは個人個人でやるべきことが違うので「これが必ず正しい」という事はありません

例えば、「高い声を出すと喉が絞まって苦しくなる」という人がいたとします
声帯の閉鎖が強いのか?あるいは喉仏が上がって喉が狭くなっている。などの原因が考えられます
こういう人に「ハミングで鼻に声を響かせるように」という練習をやっても逆効果になる場合があります
なぜなら、喉仏を上げたほうが高音が強調されて鼻に響くので、どんどん喉仏を上げるクセがつく可能性があります(私がそうでした)

次の例です「声質がモヤッとして声に明瞭さがない、明るい歌に馴染まない」という人。
解決策としては、口を横に広げたほうが高音が協調されるので、口角を上げて歌うことで声が明るくなるかもしれません
こういう人に「口を縦に大きく開けて~、あくびの状態を作って声を出しましょう」という合唱団がやるような練習をやっても、よけいに声質が丸くなって逆効果の場合があります

上に書いたのは、ほんの一例です
ボイトレに行くと、お決まりのようにハミングで鼻に響かせる練習をしたり、合唱のように口を縦に開けて歌うスクールがあります
別にこの練習法を否定する訳ではないのですが、誰に対しても同じ教え方をするのは良くないです(グループレッスンなら仕方ないですけどね)

例えば、喉仏の動かし方が分からない人に「ハミングしながら振動を感じる場所を変えてみてください。鼻の方に響いてるときは喉仏は上がってますよ、唇~喉に響いてるときは喉仏は下がってますよ。こうやって喉仏をコントロールするんですよ」と教えるなら良いと思います
あるいは「あなたは声質が軽いから、口を縦に開けて中低音を出すようにしたら?」というアプローチなら良いと思います

こうやって、個人個人の今の現状を分析し、本人がどうなりたいのか?そして現実的にそれが可能なのか?を考えることが大事だと思います

声帯閉鎖のコントロール(概要)

声帯閉鎖の解説図です
大きく画像表示する場合は→こちら

真ん中の「白い部分」が声帯です
左から右にいくほど声帯が開いて、息が漏れやすくなります
絵は分かりやすくするため簡潔にしてます。記事の下に載せてる動画がリアルな声帯の動きです

←左から解説していきます
・1番左は「息を止めている状態」です。声帯は完全に閉じています
重い物を持ち上げるときや、ウンコをするために腹圧を上げている時の状態です
声帯がギュッとくっついて、肺の中の空気を漏れないようにします

・左から2番目は、ボーカルフライ(呪怨ボイス)を出すときの状態です
閉鎖した声帯から空気がプツプツとわずかに漏れている状態です
ボーカルフライについては今後また解説していきます

・3番目は地声で、普通の会話の状態です
肺から空気が出て声帯の間を通り、声帯が大きく振動します
ボリュームの大きい声を出せます

・4番目は裏声です。声帯が伸ばされて、声帯の表面だけが振動しています
ボリュームは落ちますが、振動スピードが増えるので高い声が出しやすくなります

・5番目はファルセットです。声帯の閉鎖がかなり弱くなって空気がかなり漏れます
図書館でヒソヒソと話すときの状態です
優しく静かに歌いたいときに使います

・1番右は呼吸をする時です。声帯はまったく振動しません

声帯の閉鎖が強くなれば、息は肺から出にくくなります
声帯の閉鎖が弱くなれば、息は肺から出やすくなります

歌で使うのは主に地声~裏声~ファルセットまでです
ボーカルフライはめったに使いません
地声と裏声の間に、ミックスボイス・ヘッドボイス・シャウトがあります

声帯は「閉じる・開く」の他に、「縮む・伸びる」の動きもあります
高い声を出すとき、声帯は筋肉によって引っ張られて伸ばされます
伸ばされた時に、声帯の閉鎖が強い「地声」のままだと、スムーズに高い声に移行することができません

詳しくはこちらの「なぜ高い声が出るのか?良いハイトーンと悪いハイトーン」を読んでください

高い声に移行するときは、少しずつ声帯の閉鎖を弱める必要があります
しかし、ファルセット状態まで弱めてしまうと声がスカスカになりますので、地声と裏声の間で練習します
地声から裏声はスイッチのようにON/OFFで切り替わるわけではなく、その中間の段階がたくさん存在します。コレがミックボイスと呼ばれます
地声に近いミックスもあれば、裏声に近いミックスもあるわけです

声帯は指先くらいの大きさしかありませんので、コントロールはミリ単位で超緻密です
例えて言うなら、指でアリンコを潰さないように、つまむ感じです

なので、ボイトレは喉の筋肉や声帯のパワーを鍛えるのではなく、コントロールの方法を身につけるという事です(時には筋力を使う場面もありますが)
具体的な練習方法は→こちら

声帯の動画:↓2:45くらいから本物の声帯の動きが見られます
裏声だと声帯は少ししか振動せず、地声は大きく振動してるのが分かると思います

発声のコントロール(概要)

これからブログのネタにする事を、ざっと赤字で書いてみました

ちなみに元の解剖図はウチにある本を写真で撮ったものです。
図を使わせてもらったんで宣伝しときます。生理学の基礎を知るには良い本です
(解剖生理をおもしろく学ぶ サイオ出版)

色々書いてあって、何が何だか分からないと思います
この図を見ただけだと、具体的に何をやれば良いの?という感じですよね
今後、ここに書いてある事を1個1個掘り下げて書きます

発声の仕組みについて

ボイトレをやる前に、人間の発声メカニズムを理解しましょう

人間の声が出る仕組みは、肺から空気が出て声帯を振動させて音が出ています
実は、声帯は「ブー」というブザーのような音しか出せません
ただの「ブー」という音が、喉・舌・唇の動きによって共鳴がおき「あいうえお・かきくけこ」などの言葉に変化します
以下のYoutube動画をご覧ください

もっと専門的に勉強したい方はこちら↓

http://splab.net/Vocal_Tract_Model/index-j.htm

上智大学 理工学部 情報理工学科 荒井研究室 研究分野:音声コミュニケーション


覚えておくべきことは

  • 音の高低は声帯の「ブー」という振動で決まる
  • 共鳴や言葉は声帯から上の構造で作られる

例えば「高い声を出したい」ときに、よく「頭に響かせるように」とか言われるのですが、共鳴で変わるのは音質であって音程ではありません
(音質と音程の違い:ステレオで音楽を聴いていて、低音を強調したり高音を強調したりして「音質」を調整しても、曲のキー(音程)は変わりません。「音程」とは低音高音のバランスやボリュームではなく、どれぐらいのスピードで振動してるかです)

音程を高くしたいなら、共鳴よりも声帯をどう使うか?を意識しなければいけません
ただし、どういう教え方がその人に合うかは分からないので、「頭に響かせよう」というイメージで上手くいく場合もあります
でも実際に頭に響いて声が高くなるわけではなく、現実は声帯振動が音の高さを決めています

ボイトレではこういう「感覚的なイメージ」と「現実に起きていること」が一致しないことがあります

「鼻に響かせると高音が出る」というイメージも、現実に起きているわけではありません
なぜなら「発語するとき喉と鼻の通路は、基本的に閉じているからです
詳しくはこちらの記事を呼んでください→鼻腔共鳴の本当のところ