イメージ的な言葉に惑わされないように

音楽は芸術の世界なので、独特の言葉の表現を聞くことがあります
歌ってるときは背中を意識しろ
後頭部から声を出せ
下半身に集中しろ
頭の上の風船を割るように
・・・・などなど
これは全部「発声のイメージ」であって、本当に身体がそうなる訳ではありません

例えば「背中を意識しろ」というのを解剖学的に説明すると、、、
呼吸を吐くための筋肉である腹横筋は腹から背中まで付着している
身体の正面の腹直筋よりも、胴体をグルッと一周してる腹横筋が呼気で使われる
だから「腹だけじゃなく背中も意識する」
さらに、背筋を伸ばすことで胸郭が広がるので、少し空気の入りが良くなる
と、こんな感じです。

でも「背中を意識しろ」と教えられても、素人は何のことか分かりませんよね?
具体的な説明がないから、人によって解釈が変わってしまいます
そうすると、無駄な力を背中に入れる人もいるだろうし、無理な姿勢で歌う人も出てくると思います

次の例です、「後頭部から声を出す」というイメージを解剖学的に説明してみます
喉仏が過剰に上がってしまうと、喉の空間が狭くなって、喉よりも口腔が重点に響きます
そうすると感覚的には口~鼻にかけてビリビリ振動を感じるので、あたかも声が「正面」に飛んでいる感じがします。
人にもよりますが、正面(口腔)だけに響いてる声は「キンキンした声」になりがちです
喉仏を下げると、声が喉の広い空間に響きますので、厚みがある声になります
この時、振動が正面から後方に移動した感じになります。これが後頭部から声を出す感覚です
(ちなみに、軟口蓋を上げると後頭部に響く。という説明は解剖学的に間違いです。詳しくは→こちら

ボイトレに行くとたいてい「声の方向」という話をされますが、声が前後に移動する訳ではなく、「喉仏の位置」と「口腔の形」で声道の共鳴が変化し、それによって振動を感じる部分が変わる。ということです
なので、後頭部なんかを意識するよりも、喉仏と口腔を動かす練習をしたほうが良いと思います
大事なのは、その練習のためのツール(方法)があるかどうかです

ロウソクの火が揺れないように歌う練習は良いのか?

結論を先に書きます

・ロウソクの火を揺らさないで歌うのは、小さい声を出すための練習ではなく、無駄なパワーを使わず、「共鳴」でしっかりした声を出すための上級練習

・初心者はやらないほうがいい

・ポップスはファルセットも使うので、火はどうしても揺れる

・アナウンサーや声優の方には良い練習


人間は息を吐かないと声を出せません
ギターの弦は息がなくても音がでますが、管楽器は息が必要です
人間の声は管楽器みたいなものです

声帯閉鎖のコントロールで解説しましたが、声帯閉鎖は弱いほうが息がたくさん出ます

地声=声帯閉鎖が強く、息があまり口から出ない
裏声=声帯閉鎖が少し緩んで、ほんの少し息の量が増える
ファルセット=声帯閉鎖が弱く、息がスカスカと漏れてる状態

静かな声で「ヒソヒソ話」してる状態がファルセットです
口の前にティッシュなどを垂らして、「あ~~」と声を出してみてください
地声だとティッシュは揺れないけど、ファルセットだと揺れるはずです

ロウソクの火を揺らさないで歌う」という練習方法をよく耳にします
揺らさないで歌うには「地声~裏声」で歌う必要があります
無駄に息を強く出したり、よけいな力で叫ぶと、火は揺れてしまいます
そうならないように、「無駄なパワーを使わず共鳴を使ってボリュームを出そう」という練習です。上級の練習だと思います
「共鳴を上手く使えない → 無駄に声を張り上げる → 息が多くなる」という事です
(共鳴については何個か記事を書いてますので、以下のリンクをご参考ください)
声のボリュームを上げるには?
喉仏と口で音質をコントロール
固有振動について(難しめ)

しかし、火が揺れるのが必ずしも悪い訳ではありません
ポップスではファルセットも使いますし、ハスキーボイスの人なんかは息漏れが多いです
ジャンルに合った声が出てれば、「火を揺らさない」なんて事に拘る必要はありません

あと「火が揺れないからOK」という訳でもなく、喉が閉まって苦しそうな地声を出している人は、口から息が出てませんので火は揺れません
「火が揺れる or 揺れない」で「良し悪し」は判断できません

特に初心者の段階では、「声帯閉鎖が強すぎて息を吐けてない人」が多いです
その段階で「あまり息を吐いちゃダメ」という意識を持ってしまうと、よけいに悪化する可能性があります
初心者のうちはしっかり息を吐く意識を持って、だんだんと上達したら無駄を無くしていけば良いと思います
何事も練習には段階があります。いくら良い練習法だとしても、相手のレベルや発声状態によっては逆効果になる場合があります
↑とは逆パターンで「声帯閉鎖が弱すぎて、スカスカ息が漏れてファルセットになってしまう人」なら、火を揺らさない練習は良いかもしれませんが、まぁ普通に声帯閉鎖の練習をした方が上達すると思われます

火を揺らさない練習は、アナウンサーや声優の人には良いと思います
アナウンサーの世界では、特に「マイクを吹くな」と言われます
「はひふへほ」を発声するときなど、「はっひっふっ!」と過剰に息を吐くとマイクに「ボッ!」と雑音が入ってしまいますので良くないですね(それを防止するためにポップガードというものがあります)

ものマネでミックスボイスの練習(声帯閉鎖コントロール)

声帯のコントロール(概要)高い声が出る仕組みで書きましたが、地声→ミックスボイス→裏声をスムーズに繋ぐには、高い声に移るにしたがって、少しずつ声帯の閉鎖を弱める必要があります
今回はその練習方法を書きます

まずこちらの記事を読んで、リップロールが出来る人は、まずその練習をしましょう
何事も呼吸が基本なんで

本来ミックスボイスを出すには、地声と裏声を両方ちゃんと出せることが重要なんですが、ここでは回りくどいことを抜いて、手軽な方法をご説明します

私がオススメする練習法は・・・北斗の拳のケンシロウの真似です(笑)
ふざけてません、本当です
え?ケンシロウを知らない?この人です↓
https://youtu.be/gplh7VWmsng?t=1224

ちなみに最近の声優じゃなくて、初代の神谷明さんの声が理想です

おお~~あたたたたたたたたたた!

最初の「おお~」の部分は地声で出してください(これ重要)
ケンシロウが力を溜めているときの声です「おお~」

「あたたたた」の部分はヘッドボイスと言って、裏声よりちょっと声帯閉鎖が強い状態です(まぁざっくり裏声と考えてもらってOKです)

で、「おお~」から「あたたた」をゆっくり繋いでみてください
「おお~~~~~ぁぁぁぁぁあたたた」みたいな感じで
ゆっくり繋ぐのが難しければ、早く繋いでやってみてください
「おお~あたたた」みたいな感じでも、初心者の段階ならOKです

この間の「~~~ぁぁぁ」の繋ぎの部分がミックスボイスです
「たたたた・・・」の部分はヘッドボイスなので、あまり練習しなくていいです
大事なのは繋ぎの部分です

おお~~~~ぁぁぁあたたたたたたたたたた!
この赤字の部分をゆっくり重点的に練習してください
これが地声→ミックス→ヘッドボイスを、ゆっくりスムーズに移行する練習です
これが出来るようになったら、逆に上から降りてくるパターンもやってみてください

これは特殊な練習ではなく、ボイトレだと「サイレン」という練習になります
「ウ~~」というサイレンの真似を、ケンシロウに置き換えただけです

で、この練習をやっているときは、共鳴のことは気にしなくてOKです
共鳴とは、いわゆる「鼻に響かせる」とか「喉に響かせる」ってやつです
この練習は声帯閉鎖のコントロールの練習なんで、よけいな事は考えずに声帯の動きだけに集中してください。共鳴は共鳴で別の練習をします

注意しなければいけないのが、「おお~~~あたた」に移るときに、逆に声帯に力を入れてしまうパターンです
「お゛お゛~~~~あ゛だだだだ!」みたいになるとダメです

こういう状態になる方は、まず裏声を軽く出す練習が良いと思います
狼の遠吠えの「ワオーーン」とか、レイザーラモンの「フォーーーウ」の真似が良いかもしれません
この練習に限らず、何かのモノマネをやることで、コツが簡単に掴めることがあります
「志村けん」の真似も使い方によっては有効です(^^;)また後日

誤解を招きやすいボイトレ用語。エッジボイスにご注意

ボイトレの勉強をしていると、いろんな専門用語を耳にします
チェストボイス、ミックスボイス、ヘッドボイス、ミドルボイス、シャウト、鼻腔共鳴・・・などなど
こういう用語は人によって定義があいまいです
ボイトレ界は誤解を招きやすい用語が多いんですが、今日はその中でも特に注意するべき言葉をご説明します

それはエッジボイスです
これ、要注意の言葉です。人によって定義があいまいです

声にエッジを出す方法は、私が知る限り6種類の方法があります(下の3つはほとんど使わない)

  • ボーカルフライ(地声から完全な声帯閉鎖までの途中)
  • シャウト(地声から裏声に変わる途中)
  • デスボイス(仮声帯を振動させる)
  • ハイラリで高音を強調
  • 過度な鼻腔共鳴を起こす
  • 舌を上顎に近づける(「い」と発音するような形にする)

エッジボイスと言われたとき、この中のどれなんだろう?と思うんです
まぁ、だいたいの人はボーカルフライと同じ意味で使ってるんですが、このボーカルフライとシャウトを混同してる人が多いです

ボーカルフライは声帯閉鎖がかなり強い状態
シャウトは地声よりも声帯閉鎖が弱い状態です

似たような声が出てても、2つの状態は全く違います

で、「ミックスボイス習得にはエッジボイスの練習が良いよ」と言う人がいるのですが、エッジボイス=ボーカルフライだとしたら、ほとんどミックスボイスには関係ありません
声帯閉鎖のコントロールでも説明しましたが、ボーカルフライは地声よりも声帯閉鎖を強めて、息が止まる寸前まで閉鎖させている状態です
ミックスボイスは地声から声帯閉鎖を弱めて裏声に移行することです
つまりボーカルフライとは逆のことをやってる訳です

例えば、声帯閉鎖が弱くて地声が弱々しい人にボーカルフライをやらせるなら分かる、スゲーよく分かる・・・だが普通に地声で歌ってる人にやらせるのは、ど~いうことだぁ~?

ひどい人になると「ボーカルフライの状態で思いっきり声を出せ、それがミックスボイスへの近道だ」なんて教えてる人もいます。こんな事やったら喉を壊します

たぶんハイトーン=声帯閉鎖だと思ってるんでしょうね(><)
違います、ハイトーンは声帯のストレッチ(伸展)で出します
で、ストレッチするにつれて声帯閉鎖を少しずつ弱めていくんです。強めちゃダメ
詳しくはこちらを読んでください→良いハイトーン悪いハイトーン

ちなみにシャウトも基本は地声と裏声の中間で行うので、ボーカルフライのような声帯閉鎖が強い状態にはなりません(まぁ人によってシャウトのやり方も違うのですが)

さらに言えば、デスボイスでもボーカルフライの状態はあまり使いません
「デスボイス=ボーカルフライ」が基本と思ってる人が多いですが、違います
簡単に説明すると、デスボイスの時はファルセット並みに息を吐きます
なぜならベルヌーイ効果で仮声帯を寄せるためです
声帯がボーカルフライの状態で閉鎖していると、そもそも息を吐くことができません
声帯は開いて、仮声帯は寄せる」これがデスボイスの最も重要な点です
ただし、デスボイスの感覚を掴むためにボーカルフライを利用する事はあります
これは今後また詳しく動画付きでご説明しようと思います→載せました

とにかく、エッジボイスという言葉は誤解を生むので、私はなるべく使わないようにしてます

鼻腔共鳴の本当のところ。軟口蓋は意識する必要なし

注意:鼻腔共鳴という言葉を知らない人は、あえてこの記事を読む必要はありません。 鼻腔共鳴は歌にほとんど関係ないからです。
鼻腔共鳴について悩んでいる方は読んでください。

今回のまとめ
・鼻腔共鳴は少しだけ起きれば良い
・過度の鼻腔共鳴は逆に音を減衰させる(アンチフォルマント)
・軟口蓋が上がると鼻腔共鳴が抑えられて響きが大きくなる。下がれば鼻腔共鳴が起きて音が減衰する(←逆だと勘違いしてる人が多い)
・普通に発音して歌ってれば軟口蓋は自然に上がるので、軟口蓋を動かすような無駄な力はいらない
・共鳴で音質が変わっても、音程が高くなることはない


ボイトレを勉強していると、鼻腔共鳴という言葉をよく耳にすると思います
「高い声を出すには鼻腔共鳴が必要」
「鼻腔共鳴させると明るい声になる」とか言われます

結論から言うと、通常は高い声を出しても鼻腔共鳴はほとんど起きません
実際には「口腔に響いた高音が、骨を伝わって鼻に振動を感じる」のです
ほとんどの人が、この「口腔に響いた高音」を「鼻腔共鳴」と勘違いしてます
これは鼻腔共鳴ではありません

本当の鼻腔共鳴は「喉と鼻の通路を開く」ことです
喉と鼻の通路が過剰に開くと悪い声になります。これは「やってはいけないこと」です


それと、音程(ピッチ)は共鳴では決まりません。声帯振動で決まります
鼻に響かせたり喉に響かせたりで音質は変わりますが、音程を上げるなら声帯振動を変える必要があります(かなり厳密に言うと、共鳴腔の形が声帯振動に少し影響する)

鼻腔共鳴が起きてるか?を簡単に証明する方法があります。鼻をつまんでラララ~と歌ってみましょう
少し歌いにくくなると思いますが、ほぼいつもと変わらぬ声が出せると思います
鼻をつまむと鼻腔共鳴ゼロの状態です

鼻をつまんだ状態で「ほとんど声が出せない」としたら、「過度に鼻腔共鳴」するクセがついてます。これは「開鼻音」という悪い状態で、詳しい説明は後で書きます
「ちょっと歌いにくいけど、ほぼ普段の声を出せる」なら、適度な鼻腔共鳴です
「鼻をつまんでも普段と全く変わらない」という人は、全く鼻腔共鳴させてない可能性があり、これはこれで問題です
※鼻をつまんで歌うと鼓膜に負担がかかる場合があるので注意しましょう

本当の鼻腔共鳴(喉と鼻の通路を開くこと)は少しだけ起きれば良いのであって、過剰に鼻に共鳴させたり、全く共鳴させないのは問題ということです
例えば、鼻づまりの状態になると完全に鼻腔共鳴が無くなるので良くないです
過剰な鼻腔共鳴が悪い理由を以下に書きます

人間の口の奥には軟口蓋という蓋があって、口と鼻の通路を開いたり閉じたりします
呼吸時はブランと下がって開いてますが、食物を飲み込む時は、鼻に逆流するのを防ぐために閉じます
(ちなみに気管への食物の進入を防ぐのは喉頭蓋)

つまり、軟口蓋が下がる=鼻への通路が開いている
軟口蓋が上がる=鼻への通路が閉じる。
ということです
これを逆だと勘違いしてる人が多いです

ウチにある本から写真を拝借しました (解剖生理をおもしろく学ぶ  サイオ出版)

軟口蓋にはもう一つ役割があって、発音に関係します
人間は言葉をしゃべるとき、自然と軟口蓋が上がって、鼻との通路を塞ぎます
塞がないと、上手く発音できないからです
ただし「なにぬねの・まみむめも・ん」の発音時は、軟口蓋が下がって鼻腔に声が響きます。
なので鼻をつまむと「ん」は発音できませんし、「なにぬねの」も言いにくいです
全く鼻腔共鳴がないと、一部の言葉を上手く発音できません。なので鼻詰まり状態は良くないのです
(ちなみにイヌやネコには軟口蓋が無いらしいです。だから喋れないらしい?)

病的な理由で軟口蓋が動かない、あるいは穴が開いてる状態になると、声が鼻に漏れてマトモに発音できません。常に鼻腔共鳴してる状態です
これを「鼻音化」あるいは「開鼻音」と言います
過剰に鼻腔共鳴させてしまうと、特定の周波数が鼻の空間に吸収されて、口から出る音が弱くなります(アンチフォルマント)
つまり、過剰な鼻腔共鳴は変な発音になり、共鳴するどころか逆に音が吸収されるのです

以下の動画は「母音の鼻音化」の実験動画です
「あ~~」という発音は鼻腔に響かせない発音なのに、わざと鼻に響かせる実験をやってます

ボイトレで「軟口蓋を上げろ」とか「のどチンコを上げろ」とか言われることが多々あります。YOUTUBEでもそんな動画がたくさんあります。
しかし軟口蓋は発音時に自然と上がる構造になってます。そして軟口蓋が上がると鼻への通路は閉ざされます
本当に鼻に響かせるなら軟口蓋を下げる必要があります
で、軟口蓋を下げて鼻腔共鳴させると声が弱くなります

軟口蓋や「のどチンコ」を無理に上げようとすると、自然な歌いまわしが出来なくなります
これは実例であったのですが、某ボイトレで「軟口蓋を上げた状態を維持しろ」と言われ、それを頑固に守ってる人がいました
必死に口を大きくカパーッと開けた状態で歌うので、歌詞に全く表情をつけられない人でした・・・オペラとか合唱やるならコレで良いんでしょうけどね
(大きく口を開けたところで、軟口蓋とは何の関係もない)

ハミングの練習はどうなのか?
ハミングは、口を塞いで鼻から息を出しながら歌う練習です
まさに鼻腔共鳴そのものの練習ですが、先に説明したとおり、過剰な鼻腔共鳴は必要ありません
鼻づまりのように、全く鼻腔共鳴しない人を改善させるには良いかもしれません(鼻から息が吸えないような状況なら耳鼻科へGo)
ハミングの有効な使い方は、共鳴のポイントを探る練習です
ハミングしながら喉仏を上下にコントロールすることで、振動するポイントが上から下(口腔から喉)と変化するのを感じるツールとして良いと思います

私はボイトレスクールでハミングで鼻に響かせる練習をやりましたが、結果ハイラリ&鼻声でキンキンした変な発声になりました
その後、自分で勉強して、喉仏を下げる練習をして、鼻をつまんで歌う練習をして過度な鼻腔共鳴を改善させたら、劇的に声質が良くなりました

ボイトレに行くと必ずハミングやる所が多いですが、どういう目的で使うのか?をよく考えたほうが良いと思います