ベルヌーイ効果って特別な事なの?

今回のまとめ
・ベルヌーイ効果は特別な現象ではなく、常に声帯に働いている
・呼気が強ければベルヌーイ力(りょく)が上がり、弱ければ下がる
・過度に声帯を寄せても逆効果。それで高い声が出るわけじゃない
・ベルヌーイ力が上がれば声帯が寄りやすくなるので、それを計算して歌う

先日、デスボイス(仮声帯発声)について記事を書きました→こちら
そこでベルヌーイ効果というものについてご説明しました

ベルヌーイ効果とは、勢いよく空気や水が流れたときに、その周辺の圧力が低くなって、周りのものを吸い寄せる現象です
シャワーを浴びていて、水にカーテンが吸い寄せられる現象です
(デスボイスではこれを使って仮声帯を寄せて音を出します)

「じゃあベルヌーイ効果を生み出す発声って特別なんだ!?」と思うかもしれませんが、これは声を出しているとき声帯の間で常に起きています
発声中は声帯を常に息が通っている訳ですから、常にベルヌーイ効果で声帯同士を引き寄せる力が働きます
(呼吸時は声帯が完全に離れるので、ベルヌーイ効果は発生しません)

勘違いしてる人の中には、「ベルヌーイ効果を使えば、力を抜いても声帯を寄せられるので夢の発声方法」と思ってる人がいますが、それは間違いです
「画期的!ベルヌーイ効果を使ったハイトーン発声法!」みたいな宣伝文句に騙されないように

先に説明したように、ベルヌーイ効果は常に起こってます
っていうか、そのおかげで声帯はブルンブルン振動しています
声帯を過度に寄せても意味がありません。たぶん声帯閉鎖=ハイトーンだと思ってるのかもしれませんが間違いです。詳しくは→こちら

そもそも声帯を寄せる(閉鎖する)力は誰でも持っています
「フンッ」と息を止めると完全な声帯閉鎖です。わずかな力で十分です。これが出来ない人いますか?
歌っていて声帯閉鎖が弱い人(ファルセットになっちゃう人)は筋力が無いのではなく、閉鎖して発声するポジションを上手くとれないだけです(あるいは声帯の異常)
なので、筋トレみたいな「声帯閉鎖のパワーを上げよう!フンッ!フンッ!」みたいな「息止め」運動は、ほとんど意味がありません
「声帯閉鎖の声はこうやって出すんだよ」という練習ならOKです(ボーカルフライ練習は良いと思います)
声帯閉鎖を強めたり弱めたりするのは、パワーではなくテクニックの問題です
前も書きましたが、アリを潰さないように指で挟むことと同じです
ちなみに声帯閉鎖が強すぎる人のほうが多いと思いますので(特に男性)、閉鎖を強める練習は逆効果になりかねません
話が脱線しましたが、とりあえず「ベルヌーイ効果で声帯閉鎖を強めよう」みたいな間違った情報は消してください

ベルヌーイ効果は普通は意識する必要も無いのですが、一つ頭に入れておくことは、息を強くすればベルヌーイ力もUPして、声帯を寄せる力が強くなる。という事です
例えば、ミックスボイスでハイトーンを出す場合、地声よりも声帯閉鎖を弱めます
その時、呼吸が強ければ声帯の寄りが強くなり、弱ければ寄りが弱くなります
なので、強い呼吸でハイトーンを出すときに、ベルヌーイ効果を計算して少し声帯閉鎖を弱めにしておくんです
そうすると、ピッタリちょうど良い具合に声が出ます
閉鎖が強いと、ベルヌーイ効果でさらに閉鎖が強まって、上手く声が出なかったりします
なので私は「強く声を出すときはチョット閉鎖を弱める」と意識してます

という事で、ベルヌーイ効果は特別なものじゃなく、常に起きています
常に起きているので、それを計算して歌うと良いですよ。という話でした

喉に良い飲み物。悪い飲み物

今回は喉に良い飲み物のお話です

まず覚えておくことは、声帯を水が通過することはありません
声帯の前には喉頭蓋(こうとうがい)というフタがあり、水や食物を飲み込むときはフタが閉まり、声帯の通路に流れないようになってます

もし喉頭蓋がブロックできなかったら、その下にある仮声帯や声帯が止めます
2重3重のブロックで、声帯を水が通過することはありません
声帯を通過して気管に入ってしまったら、反射的にセキが出て排出します
通過してしまうと、肺に雑菌が入って肺炎を起こす可能性があります(誤嚥性肺炎)

なので、「喉(咽頭・喉頭)に良い飲み物」はありますが「声帯に良い飲み物」はありません(笑)
まぁ上気道を潤すだけでも、十分に楽になりますけど

声帯を潤すとしたら加湿器を使うか、身体全体が脱水にならないようにする事です
なので、なるべくマメに水分を補給しましょう。利尿作用がある飲み物は良くないかもしれません
アルコールもダメです。呼気にアルコールが含まれると声帯が乾燥するらしいです
辛い食物も避けましょう。キムチ鍋を食べててムセたら、すごい喉が痛くなったことがあります
まぁ水が一番良いですよね。結局

↓ここからは私の個人的な意見です。科学的根拠はありません
温かい飲み物のほうが、筋肉がほぐれて良い気がします
某プロボーカリストが、ライブ前に脂っこいスープを飲むそうです。私も試しましたが確かに楽になる感じがします
ウーロン茶は喉の脂分が無くなって悪い気がします(あくまで想像)
喉が痛いときにポカリを飲んだら、なんかヒリヒリしました
オレンジなどの柑橘系も喉に刺激を感じるので避けます
のど飴も柑橘系は嫌いです。龍角散のど飴を愛用してます

これも想像なんですが、物を飲み込むときに喉仏などの骨が動くので、それがストレッチ効果を生み出してるんじゃないかと
喉が疲れたときに、水分だけじゃなく食事を摂ると楽になるんですよ
たくさんモグモグ・ゴックンすることで喉仏が動いて、筋肉がほぐれるんじゃないかと想像してます

追記:ちなみに、歌ってるときに喉仏が過剰に上がると、喉頭蓋が閉じぎみになって、肺~喉の通路を狭くしてしまうらしい

【動画付き】なぜ高い声が出るのか?良いハイトーンと悪いハイトーン

まずこの声帯の動画をご覧ください(ちょっとグロい映像です)
女性の声帯のようで、男性よりも声帯閉鎖が弱い感じです
高音になるにつれて声帯が伸びて、低い声で縮みます
声帯の間が広がって息が漏れるとファルセットになります
ちなみに、ゆっくり振動してるように見えるのは、振動が早すぎてカメラで撮れないからです。実際は1秒に数百~数千回で高速振動してます

声帯閉鎖のコントロールでも書きましたが、高い声が出る仕組みについて補足します

声帯はギターの弦に例えられますが、人間の喉は管楽器みたいなものです
ただし、ギター弦に例えると説明しやすいので、今回はギター弦をイメージしてください

ギター弦の音程を高くするには3種類の方法があります

1、フレットを押さえる(弦の振動する部分を短くする)
2、弦を引っ張る(弦のテンションを上げて固くする)
3、細い弦に変える(細い物体のほうが振動スピードが上がる)

これを声帯に当てはめると

1、声帯の振動する部分を短くする
2、声帯を引っ張る
3、声帯の振動する部分を薄くする

となります(実際はもっと複雑なのですが、簡略してます)
絵で説明すると

一番左は普通の地声です。全体が大きく振動しています
1の状態は、声帯閉鎖を強めて上半分しか振動してません
2の状態は、声帯を引っ張ってます
3は声帯閉鎖を弱めて声帯の間に空間があります。すると表面の薄い部分しか振動しません。厚いものが振動するより、薄いものが振動したほうが高音が出やすくなります

1~3どれでも高い声を出せるのですが、
1の声は、苦しそうな地声になります
2の声は、声帯閉鎖が弱ければ「フォーーウ」という裏声。閉鎖がほどほどならミックスボイス。閉鎖が強すぎると苦しそうなハイトーンです
3の声は、声帯がストレッチされてれば「フォーーウ」という裏声になり、ストレッチされてなければ低い声のファルセットになります

1の方法はダメです。良い声が出ませんし、負担も大きいです
一部の激しいヘヴィメタルでしか使いません

2と3は裏声です。声帯が伸ばされて、さらに声帯閉鎖が弱まって振動する部分が薄くなるのです

で、地声から裏声の間にあるのがミックスボイスです
地声の状態から声帯を伸ばしつつ(2)、声帯の振動する部分を薄くする(3)
ONとOFFで切り替えるのではなく、その中間の状態があるわけです
まず裏声をしっかり出せるようになったら、地声と裏声を繋いでみましょう
具体的な練習は→こちら

ちなみに、ボイトレ系のサイトで「1の状態でハイトーンを出す」と説明してる所がたくさんあります
絵が間違ってるだけなら良いんですが、レッスン内容も間違ってたりします
プロのトレーナーでも勘違いしてる人がいるので注意しましょう(><)

言葉ができるしくみ。詰まりやすい歌詞をスムーズにする

今回もマニアックで難しい内容です・・・

今回のまとめ
・言葉によって、声の出しやすさが変わる
・高い声が出しにくい言葉もある。例えば「い」など
・フォルマントを理解することで、喉が絞まりやすい歌詞もスムーズに歌うことができる

「発声の仕組み」でも書きましたが、声帯は「ブー」というオナラみたいな音しか出せません。詳しくは→こちら
あいうえお・かきくけこ・・・と発音できるのは喉・舌・口などの働きです

じゃあ何で「ブー」が「言葉」に変わるかと言うと、口や舌の動きで「特定の周波数」が変化するからです(音声フィルタリング)
コンピュータの「ブー」という音でも、周波数を変化させることで人間の声を合成できます。初音ミクなどのボーカロイドや、テキスト読み上げソフトに応用されます

「あいうえお」の母音がどう決まるかは、「口の開く大きさ」と「舌の位置(前後)」で決まります

ウチにある本から引用しました 言語聴覚士の音響学入門 海文堂

何やら難しい表ですね
まず「a,i,u,e,o」と書いてある文字に注目してください。これは母音です

横軸は「口の開き加減」で、右に行くほど口が大きく開いて、周波数も高くなる
縦軸は「舌の位置(前後)」で、上に行くほど舌が前に出て、周波数が高くなる

つまり、「あ」は口を大きく開く。「い」「う」は口を小さく
「お」は舌が後ろに行く。「い」「え」は舌が前に行く
ということです

追記:「お」は他の母音と比べて周波数が低いが、「お~」と声を録音して、パソコンなどで音程を上げても、「あ~」や「い~」に変わるわけではない。
母音を決めているのは音(周波数)の高さではなく、各帯域の周波数がどういう比率になっているかです

さて、歌の話をします
前にも書きましたが、共鳴で変化するのは音質であって、音程は変化しません
高い声を出すなら、共鳴ではなく声帯の「ブー」の音を高くする必要があります
しかし、高い声を出しにくい言葉があります。例えば「い」という言葉です
これは、「い」の発音をするための共鳴腔の形が、声帯振動に影響してしまうという事(らしい)です

「い」がハイトーンで苦しくなる曲。GReeeeN:愛唄
ただ泣て~笑って~過ごす君にぃ~ 隣に立って~ れる事でぇ~
原曲キーだと男性には苦しい曲です

改善方法です
口をあまり横に広げないで「い」と発音してみてください
それだけで楽になると思います
「い」という音は、舌が天井に付いてれば「い」と聞こえます
口の形は「あ」「う」「お」でも、舌が天井に付いてると「い」の音を出せるので、楽に高音を出せる形を見つけてください

あるいは、「い」を微妙に「ひぃ」とか「うぃ」と発音してみてください
例えば
れる事でぇ~」を
ひぃれる事でぇ~」とか「うぃれる事でぇ~
などと歌うと、ハイトーンを歌いやすい場合があります
で、その歌いやすい感覚を身につけたら、ちゃんと「い」に戻して歌ってください
歌いにくい母音を誤魔化すのがクセにならないよう注意です


もし歌いにくい曲に出会ったら、歌詞を全部「ララララ~」や「ママママ~」や「にゃにゃにゃ~」にして歌ってみてください
ララララ~で歌えるのに、歌詞にすると歌えないのは、「い」「う」などの詰まりやすい言葉を上手く処理できないのかもしれません

自分で作詞するときは、こういうのも考えて作りたいですね
歌詞が歌いやすい曲は爽快感があります。逆にハイトーンで歌いにくい母音が出るとストレスが溜まります・・・(ちなみにX JAPANは歌いにくい母音が多い気がします^^;)

追記記事
アゴをあまり開かない方がハイトーンが出やすい?
無声音とは何か?

筋トレはボイトレに効果あるか?腹横筋の話

筋トレはボイトレに効果があるのか?
結論を先に言うと、ほとんどありません
ボイトレやりながらジムで筋トレして、2年で12キロ筋肉を増やした私が言うんだから間違いありません(^^;)
まぁ体幹(胴体)は筋力あったほうが良いですけど、胸とか肩とかの筋肉は発声には関係しません

声帯の周りの筋肉はパワーは必要ありません。それよりも「自在に動かせるか?」「緻密な調整ができるか?」が重要です

あえて歌のために筋トレするとしたら、息を吐くための筋肉を鍛えると良いでしょう
一番は腹横筋(ふくおうきん)、あと腹筋、腹斜筋です
※腹式呼吸の記事でも解説しましたが、パワーで大量の息を吐く訳ではありません。一定の量を安定して吐くための筋肉です。腹式呼吸の詳しくは→こちら

腹横筋はインナーマッスルで、腹筋の内側にあります
腹筋は身体の正面だけですが、腹横筋は腹から背中までグルッと1周してます

ボイトレで「背中を意識する」ってのは、この腹横筋のことです
「歌うには背中の筋肉が大事」とか言われますが、背骨に付着する脊柱起立筋や、肩甲骨の間の菱形筋なんかは、たいして歌に関係ありません
やたらと背中を意識して筋肉に力を入れる人もいますが、無駄に疲れて自然な声が出なくなります。詳しくは→歌うときの姿勢について

腹横筋の構造を頭に入れて、よけいな部分に力を入れないようにします
歌うときは、息を吐きながら少しずつウエスト全体が絞られるような感じです
正面だけじゃなく、側面~腰あたりまで絞る感じです
くれぐれも無駄に力を入れる必要はありません。必要最低限で絞れば十分です

身体の正面の「腹筋」にやたら力を入れて、ボディブローに耐えるような状態で歌うのは間違いです
それは息を吐くのに関係ない力の入れ方だからです
ボディブローに耐えてる時って、力をグッと入れて外側を固くしてるだけで、内部は絞られてません。なので腹圧はあまり変化しません
正しくは、腹を軽く凹ませて、ウエスト全体を細く絞って、腹圧を上げるのです

腹筋よりも腹横筋が大事なんですが、そこまでガチガチに鍛える必要はないです
リップロールが安定して出来るくらいの「吐く力」があれば十分です

ただし・・・デスボイス(仮声帯発声)をやるとしたら、初心者のうちは息を吐くパワーが必要になるかもしれません(慣れるとデスボイスもパワー不要になる)
まぁ普通の人はハードコアやデスメタルなんて歌う機会は無いと思うので、筋トレは頑張り過ぎなくて良いと思われます