歌うときの姿勢について

今回のまとめ
・極端に悪い姿勢じゃなければ、意識しすぎなくてOK
・リラックスしたいなら、同じ姿勢を保つんじゃなくて、動く


歌うときの姿勢について
結論から言うとですね、上級者になれば、どんな姿勢でも歌えます(まぁ限度はありますが)
ただし、初心者のうちは悪い姿勢で歌うと「悪いクセ」がつく場合もあります
良い姿勢のほうが、良い発声になりやすいです

じゃあ、どんな姿勢が良いかと言うと、、、
リラックスして普通に立ってればそれでOKです(笑)

ボイトレに行くと、「天井に身体が吊り上げられるように意識する」とか「足は肩幅に開いてお腹を引く」とか色々言われますが、それで身体が緊張したら逆効果です
前も書きましたが、初心者はいろんな課題を同時にこなす事はできません
姿勢を気をつけて&腹式呼吸で背中を意識して&声帯閉鎖を弱めながら&喉仏をコントロールする・・・なんて事はできません
極端に悪い姿勢にならなければ大丈夫ですので、過剰に意識する必要はありません

極端な悪い姿勢というのは
極端な猫背:胸郭が広がらず呼吸が浅くなります。かと言ってピーンと背中を伸ばして緊張しないように
アゴが前に出て顔が天井を向く:志村けんの「アイーン」みたいな感じです。ハイラリになって喉が絞まりやすいです
(プロの歌手が上を向いて歌うこともありますが、それは喉仏を下げつつやってるから大丈夫なのです。要は上級者ならどんな姿勢でも歌えるって事です)
肩にやたらと力が入っている:よけいな力が入っていると単純に疲れますし、声にもムダな力が入ります
腹部にやたらと力を入れる:ボディブローに耐えるような力を腹筋に入れる人がいますが、腹式呼吸はそういう力の入れ方ではありません。ゆっくり少しずつ息を吐いて自然に腹が凹めばOKです。詳しくは↓以下の2つの記事を参考ください
腹式呼吸を掘り下げる
腹横筋について

前々回の記事で「歌う以外の筋肉は脱力しよう」と書きました
どうすれば筋肉を脱力できるのか?簡単です。適当に動けば良いのです

ジーッと同じ姿勢で立ってると疲れますよね?
スーパーのレジ打ちや、デスクワークをすると肩や腰が痛くなります
でも歩いていると、肩や腰が緊張することはありません
なので、先に書いたような「天井に身体が吊り上げられる姿勢」とか「足を肩幅に開く」みたいなのを頑固に守ると、かえって身体の力が抜けないのです

私のおすすめは、手をブラブラさせながら歌う方法です
リズムに合わせて体を振るのも良いですね
あとはカラオケの部屋の中を歩きながら歌ったりします
ジッと立ってるよりも楽です。リラックスしてると声の出も良いです

と、こんな事は日常生活なら当たり前のリラックス方法ですが、「歌の姿勢はこうだ!」という強い思い込みが、かえって自由な発声を阻害してしまうんですね

ベルヌーイ効果って特別な事なの?

今回のまとめ
・ベルヌーイ効果は特別な現象ではなく、常に声帯に働いている
・呼気が強ければベルヌーイ力(りょく)が上がり、弱ければ下がる
・過度に声帯を寄せても逆効果。それで高い声が出るわけじゃない
・ベルヌーイ力が上がれば声帯が寄りやすくなるので、それを計算して歌う

先日、デスボイス(仮声帯発声)について記事を書きました→こちら
そこでベルヌーイ効果というものについてご説明しました

ベルヌーイ効果とは、勢いよく空気や水が流れたときに、その周辺の圧力が低くなって、周りのものを吸い寄せる現象です
シャワーを浴びていて、水にカーテンが吸い寄せられる現象です
(デスボイスではこれを使って仮声帯を寄せて音を出します)

「じゃあベルヌーイ効果を生み出す発声って特別なんだ!?」と思うかもしれませんが、これは声を出しているとき声帯の間で常に起きています
発声中は声帯を常に息が通っている訳ですから、常にベルヌーイ効果で声帯同士を引き寄せる力が働きます
(呼吸時は声帯が完全に離れるので、ベルヌーイ効果は発生しません)

勘違いしてる人の中には、「ベルヌーイ効果を使えば、力を抜いても声帯を寄せられるので夢の発声方法」と思ってる人がいますが、それは間違いです
「画期的!ベルヌーイ効果を使ったハイトーン発声法!」みたいな宣伝文句に騙されないように

先に説明したように、ベルヌーイ効果は常に起こってます
っていうか、そのおかげで声帯はブルンブルン振動しています
声帯を過度に寄せても意味がありません。たぶん声帯閉鎖=ハイトーンだと思ってるのかもしれませんが間違いです。詳しくは→こちら

そもそも声帯を寄せる(閉鎖する)力は誰でも持っています
「フンッ」と息を止めると完全な声帯閉鎖です。わずかな力で十分です。これが出来ない人いますか?
歌っていて声帯閉鎖が弱い人(ファルセットになっちゃう人)は筋力が無いのではなく、閉鎖して発声するポジションを上手くとれないだけです(あるいは声帯の異常)
なので、筋トレみたいな「声帯閉鎖のパワーを上げよう!フンッ!フンッ!」みたいな「息止め」運動は、ほとんど意味がありません
「声帯閉鎖の声はこうやって出すんだよ」という練習ならOKです(ボーカルフライ練習は良いと思います)
声帯閉鎖を強めたり弱めたりするのは、パワーではなくテクニックの問題です
前も書きましたが、アリを潰さないように指で挟むことと同じです
ちなみに声帯閉鎖が強すぎる人のほうが多いと思いますので(特に男性)、閉鎖を強める練習は逆効果になりかねません
話が脱線しましたが、とりあえず「ベルヌーイ効果で声帯閉鎖を強めよう」みたいな間違った情報は消してください

ベルヌーイ効果は普通は意識する必要も無いのですが、一つ頭に入れておくことは、息を強くすればベルヌーイ力もUPして、声帯を寄せる力が強くなる。という事です
例えば、ミックスボイスでハイトーンを出す場合、地声よりも声帯閉鎖を弱めます
その時、呼吸が強ければ声帯の寄りが強くなり、弱ければ寄りが弱くなります
なので、強い呼吸でハイトーンを出すときに、ベルヌーイ効果を計算して少し声帯閉鎖を弱めにしておくんです
そうすると、ピッタリちょうど良い具合に声が出ます
閉鎖が強いと、ベルヌーイ効果でさらに閉鎖が強まって、上手く声が出なかったりします
なので私は「強く声を出すときはチョット閉鎖を弱める」と意識してます

という事で、ベルヌーイ効果は特別なものじゃなく、常に起きています
常に起きているので、それを計算して歌うと良いですよ。という話でした

喉の力を抜け、喉を開けってどういうこと?

歌も楽器もスポーツも、「脱力が大事」という言葉をよく聞きますね
ブルース・リーもそう言ってます(´・ω・`)たぶん

しかし、全部脱力したら声は出ないんですよね(笑)
スポーツにおいても歌においても、使う部分を適度に緊張させて、使わない部分はリラックスさせろ。という事です
全身フニャフニャではボールは投げられません

これは私の経験の話なんですが、喉を全部脱力する意識で歌ってたら、ハイラリ(喉仏が上がって喉が絞まる状態)になりました
まぁ裏声に早めにシフトするならハイラリでも良いのですが、私は地声で踏ん張ってたんで、悪い歌い方になってました
つまり、私の場合は喉仏を下げる筋肉に力を入れておいたほうが良かったのです

毎度言ってる事なんですが、その人の発声状態によって、どこに力を入れるか?抜くか?が違います
「力を抜け、喉を開け」というのは、主に声帯閉鎖の力喉仏の位置です

声帯閉鎖:強すぎる人は弱くするべきだし、弱すぎる人は強くするべき
喉仏:ハイラリになってる人は下げるように力を入れるべき。逆に下げすぎの人はリラックスして歌うべき

声帯をストレッチする筋肉は、ハイトーンを出す場合は力が入って当たり前です
(ストレッチと声帯閉鎖は違うので注意)

つまり、声帯ストレッチ筋と、喉仏を下げる筋肉は力が入ってOK
声帯閉鎖の筋肉は適度な力を入れる
顔や口を動かす表情筋も、適度に力が入ってOK
他の歌に関係ない筋肉、首とか肩とかは完全に脱力したほうが良い
という事です

声帯閉鎖や喉仏のコントロールは過去の記事に書いてます
声帯閉鎖(概要)
ものマネで声帯閉鎖のコントロール
喉仏のコントロール

喉を開くという事は、喉仏を下げて、適度な声帯閉鎖さえ意識すれば良いと思います
以前も説明したように、軟口蓋を上げるとか、鼻腔共鳴させろとかは、解剖学的に根拠がない話です。詳しくは→こちら

そもそも人間は、そんなに色んな場所を意識して運動できません
タスク(課題)が少なければ少ないほど集中できるんです
例えば声帯のコントロールの練習をしてる時は、声帯の部分(喉)にだけ集中したほうが良いです
「声帯コントロールしながら、鼻に声を響かせる」みたいな意識だと、いま何をやるべきかを見失います

無声音とは何か?ハイトーンを出しやすくする&感情表現UP

今回のまとめ
・「さ行」「は行」の無声音の子音のほうがハイトーンを出しやすい
・無声音の子音のリラックス感覚で、その他の子音も歌ってみる
・無声音の子音を強くだすと、感情表現が強くなる(やりすぎはダメ)

無声音(むせいおん)
とは、声帯を振動させないで出す音です
逆に声帯を振動させて出す声は有声音(ゆうせいおん)です
ヒソヒソ声やファルセットも無声音の仲間ですが、今回説明するのは五十音での無声音です

無声音の子音で発音する言葉は
か行、さ行、た行、は行、ぱ行です
この中で「か行・た行・ぱ行」は、「声帯・舌・唇」で、一旦息の流れを止めて、パン!と開放する事で音を出してます
「さ行・は行」は、「空気の摩擦」によって音を出してます

例えば、「さ」と発音するとき、最初の一瞬は声帯は振動しません
「さ~~~」と伸ばすと、「あ」の音になりますので、そこで声帯が振動します
つまり「さ」が子音で、「あ」が母音です

今度は喉仏に手を当てて、声帯の振動を感じながらやってみましょう
無声音の部分を長くして「さ~~~」と言ってみましょう
イメージ的には「ス~~さ~~~」という感じです(ス~~の部分は声帯を振動させずに息を吐いてるだけ)
「ス~さ」までは声帯は振動せず、「あ」の音が出てから声帯が振動したと思います
あるいは、「さっ!しっ!すっ!せっ!そっ!」と素早く声を切って言うと、声帯は振動しません
か行、さ行、た行、は行、ぱ行、全部こうなります
余談ですが、声帯摘出した「つんく氏」が、「そう(そっ)」という発音を少し出している映像がありました。あれも声帯を使わないから出来るんですね

「さ行」「は行」の頭の部分は、息が出てるのに声帯が振動してないので、声帯が開いてる状態です
母音(あ)の音が出るまでは音程は作られていません

さて、ここで実践的な歌の話をします
重い物を持ち上げる時のように、息を止めてください
そこから「あ~~~」と言ってください
次は同じように「さ~~~」と言ってください
次は「は~~~」で試してください

「あ~」の時は声帯に力が入ったまま声が出ましたよね?
「さ~」と「は~」の時は、声帯を一旦弛めて息を吐かないと、頭の子音が出ないと思います
まぁ、無理をすれば声帯を力んだまま「さあ゛あ゛あ゛あ゛」と声を出すことも出来ますが、自然に「さ」と言えば、声帯が開くのです

これが何の役に立つかと言うと、「さ行」と「は行」の子音を意識したほうがリラックスしてハイトーンを出しやすいという事です
「さ~~」とハイトーンを出す場合、母音の「あ」を強く出さずに、子音のほうを強く出すように意識してみましょう

以前に「言葉ができるしくみ」という記事で、「い~~」のハイトーンがキツかったら、「ひい~~」と言うつもりで声を出してみよう。と書きました。これも無声音の利用方法です
かといって、本当に「ひい~」と歌ったら変なので、無声音のリラックス感を掴んだら、その感触で有声音の「い~」や「あ~」を発音するのです
無声音の場合は、閉鎖を弱めた状態から閉じていくので、過剰な力が入りにくい。という事です
(逆に声帯閉鎖が弱すぎる人もいるので、練習方法は個人によって変わります)

元々の歌詞が無声音の子音でハイトーンだと、非常に歌いやすいです
TRFの「寒い~夜だから~」みたいな
これが「痛い~夜だから~」だったら、頭の音が出しづらいです
作詞するときは、こういう歌いやすい母音や子音を使うことで、爽快感ある歌を作れます

次は、感情表現の効果です
無声音を強く発音することで、感情表現を強くすることができます
まぁやりすぎはダメなんですが
例えば「寒い」を最初の無声音を長く溜めて発音すると「スーさむい」となります(文章で表現できないですけど)
「かあちゃ~~ん!」を「クゥあちゃ~~ん!」と発音するみたいな(やはり文章では表現できない)
あと、コレは無声音とは違うのですが「まだかよ!」と言うときに「んまだかよ!」と小さい「ん」を入れることで、感情表現が強くなります
感情表現の方法についてはこちらに詳しく書いてます→感情表現ってどうやるの?

ボイトレの指導方法。感覚派と理論派

ボイトレにはいろんな指導方法やメソッドがあります
先生によっても違うのですが、感覚派理論派みたいなジャンルがあります

感覚派の先生は、「声を頭に響かせるように」「声を後頭部に響かせるように」「頭の上の風船を割るように声を出す」みたいなイメージ的な教え方が多いです

理論派の先生はそもそも少ないんですが、「喉仏を下げるように」「声帯の閉鎖を弱めるように」「口の形を横に広げるように」と具体的な身体部位の説明が多いです

どちらが良いかは生徒にもよるし、状況によって両方の指導方法を使い分けるのが一番だと思います

ただ問題は、教えている先生が生徒のどういう部分を見てるのか?ということです
感覚派の先生の多くは、イメージだけを伝えて、良い声が出たら「それそれ」みたいな感じです
理論派の先生は、生徒の発声状態がどうなのか細かく分析して、それに対して具体的に改善方法を言います。
ただし、「喉仏を下げて」と言っても伝わらない場合は、「鼻よりも後頭部に響かせる感覚で」とか「胸に響かせる感覚で」と抽象的なイメージの言葉を使うことがあります
それで喉仏が下がればOKということです
しかし感覚派の先生だと、喉仏をそもそも見てない人が多いんですよ
「後頭部に響かせるようにして」と言って、ひたすら声を出させて、良い声が出たらOK!という感じなんです(まぁ先生によって色々ですけど)

すると生徒は、「何をどうすればOKと言われるんだろう?」と疑問が残るわけです。漠然と「今の感覚を忘れないようにしよう」と思うだけです
理論派の先生だと、「いまちゃんと喉仏が下がって声が出たんでOKです」と具体的に教えてくれます

これって野球のバッティングに例えて言うなら、、、
「バット振って100m玉が飛んだら良いバッティングだ。やってみろ」
カキーン!
「100m飛んだな!OK!その感覚を忘れるなよ!」
みたいな教え方です・・・長島茂雄みたいな感じですよね
普通のバッティングコーチなら、下半身の使い方、腰の回転、肘の位置などを細かく教えるわけです

リハビリでの治療もそうですけど、「これ本当に病院の治療が効いて治ったのかな?ただ単に自然治癒する過程で病院に通ってただけじゃ?」みたいな事があります
ボイトレも、本当に指導が効いたのか?単に何度も声を出してる中でコツを掴んだのか?が判断つかない場合があります
良い指導を受けると1発で発声が改善します。「悪い原因はコレだったのか!」みたいな感覚です

感覚派にも理論派にも言えることですが、最終的に大事なのは「ツール(ドリル)」があるか?です
言葉で説明するんじゃなくて、正しいフォームにするための反復練習をさせるってことです。
例えば、呼吸が弱い人にリップロールをやらせたり
声帯閉鎖が強すぎる人に「フ~フ~」というフクロウみたいな声で歌わせたり
喉仏が上がりやすい人に「ぐぉ~ぐぉ~」みたいな喉仏が下がりやすい言葉で歌わせたり

生徒の改善点を見つけて、その悪いクセを改善させるツールをたくさん持っているかが重要だと思います
声帯閉鎖が強い人に「喉の力抜いて!」と言うだけなら誰でもできます

で、その改善点を正しく見つけるのに、正しい発声の仕組みを勉強しないと間違いが起こります
正直、ボイトレの先生は、身体の知識、発声・発音の科学的な理論をほとんど知らない人が多いです
レッスンを受けていて「それって解剖や講音の理論から言うとおかしいんだけどなぁ」と思うことが多々あります

ちゃんとした資格みたいにカリキュラムが統一されてないんで、それぞれの流派で独学でやってるのも問題だと思います
まぁリハビリの世界は国家資格で統一されてても、変な考えの先生が何人もいますけどね
(Θ_Θ;)